呑んべんだらり

三度の飯と酒が好き

すし ふくづか@神楽坂

寿司が好きだと何度も主張しお店の感想を書いてきた私だが、かと言って寿司の魅力を上手く文章に認める自信があるわけでは全く無い。
そもそも食レポって難しい。ブログや動画で上手に食べ物の魅力を紹介している人を見ると、なんでこんなに色んな言葉を上手く使って「食べたい!」というこちらの気持ちを昂らせてくれるんだろう、と尊敬してしまう。

そんなわけで、これからはお寿司を食べても画像をバーっと乗せるだけにするとか、それだとインスタでやれって事になるし、いっそ記事にするのをやめるか……?とまで思っていたのだけれど。
「こんな経験をさせていただいては、文章にしないと勿体ない!」と思わされる、すごいお店に先日伺ってしまった。
それがこちら。

http://sushi-fukuzuka.com/

神楽坂という大好きな町で、こだわりの詰まったお寿司を食べられる。何という至福。
こちら、実は前記事の麹町みやこさんに伺った翌日にNさんと伺った。
というのも、本来一緒に行くはずだった方が急な体調不良でキャンセルとなり、私にお声掛けいただいたというわけだ。
ぼた餅どころかお寿司が落ちてくる僥倖に感謝しかない。

配膳

写真を見て分かるように、店内はかなり暗めの照明。カウンターのみで、6席ほどのこじんまりとした空間。
奥にある台はスタンドライトのようにほのかな光に照らされており、こちらに料理を提供していただく。
あと、店内がめっちゃ良い香り。LUSHやSABONのお店のような華やかで直球な香りではなく、香木のようなじんわり温度が感じられるような優しい香り。
この時点で既に期待度は最大値を振り切っている。

お箸

コースが始まる前に、お箸を選べる嬉しいサービス。
たしか5種類くらいあったかな?私は朴の木にしてみた。このお箸は帰りにお土産で頂ける。

シャンパ

こちらのお店はペアリングにも力を入れているとの事なので、ペアリングで飲み物を出していただく。
実はこの日、夜のバイトがあったのだがどうしてもこちらのお店に伺いたいので、店長に連絡してバイトは遅出で出勤する事にしていた。
あまり飲み過ぎて仕事にならなくても困るので、ペアリングだと何杯くらい提供されるか大将に伺ったところ、2~3品につき1杯だと仰ったのでそれなら大丈夫かとお願いした。

しらす

生のしらすの磯臭さが茗荷の香りでさっぱりと流され、つるっと食べられるおつまみ。

メヒカリ

実は深海魚だと聞いて驚いた目光り。
これまでの人生で一番美味しかった焼き魚は、代々木上原の鮨 廣金さんで頂いた太刀魚だったんだけど、このメヒカリが1位に躍り出てきてしまった。
身が柔らかくホクホクしていて、脂と旨味が口に入れた瞬間じわ~っと広がっていき、飲み込むのが勿体ないくらい美味しかった。

くじら

ベーコンはちょくちょく居酒屋で見かけるが、刺身は人生で数回しか食べたことがない。
牛刺しのような、魚より数段噛み応えのある食感で見た目よりさっぱりしている。

牡蠣

これも人生で食べた牡蠣の中で一番美味しかった……
元々牡蠣は大好きで、生も勿論だが火を入れた牡蠣が好き。特にオイスター・ロックフェラーが大好物なんだけど、このシンプルな蒸し牡蠣はこれまでの数多の牡蠣たちを悠々と追い抜いてしまった。
適度な弾力がありつつもしっとりした舌触りの身に、牡蠣の旨味がぎゅっと凝縮されている。

2杯目

お次は白ワイン。ここまでは良いペース。

まぐろの山かけ

上に乗っているのはすじ青のり。こよりみたいに細く糸のような青のりがぎゅぎゅっと纏まっている。
まぐろが見えないくらいたっぷり乗せられた山かけにほんのりお醤油の味がついていて、まぐろと良く絡んで美味しかった。
これが提供されたとき、残った山芋を掬うようのスプーンが欲しい…と思ったが、粘度が高すぎて全くお皿に残らず、お箸で綺麗に食べられたのにも地味に感動。

3杯目

ここで満を持して日本酒の登場。九郎左衛門は飲んだことがあるが、雅山流は初めて。

牡丹海老

牡丹海老を焼酎に漬けたもの。
生の海老独特のとろっとした身の甘さに焼酎の香りが交わり、すごく上品な美味しさ。

ガリ3種

なんとこちら、ガリが3種も出てくるのである。面白い。
手前は砂糖の入ったほんのり甘いガリ、真ん中が砂糖なしの辛いガリ、そして一番奥はなんとリンゴのガリ
アップルパイの中身をさっぱりさせたような、口直しにぴったりの爽やかさ。

カワハギ

ここからはいよいよ握り。
先ずはカワハギ。中にはしっかり肝も包まれている。
実は学生の時バイトしていた個人経営の居酒屋の名物がカワハギの肝造りで、そこで働いて以来カワハギが好きになったのだが、まさかお寿司にするとこんなに美味しいとは。
最初に結構シャリの主張が強めだと感じたが、カワハギの身の歯ごたえと肝の濃厚な旨味がすぐに追いついてきて、ちょうど良い塩梅に。

さんま

この赤と銀の美しいコントラストよ。
見ただけで脂が程よく乗っているのが分かる。個人的に、さんまは焼きより生が好き。

4杯目

お次は赤ワイン。ここからはまぐろ祭りなので、赤を合わせるようだ。

中トロ

お祭りの先鋒は中トロ。中トロの安定感って他のネタには無いよなあ。
こちらは背トロという背中側の中トロで、泳ぐときに一番使う背中の筋肉とのこと。
筋肉と聞くと硬そうなイメージだけど、全く逆ですごく柔らかくてきめ細かい繊維が口の中でほどけていく。

赤身

次鋒は赤身。中トロに比べると脂は無いが、その分旨味が強い。
細かく美しい隠し包丁のせいなのか、全く筋っぽさはなく柔らかい。

大トロ

そしてここで大トロの登場。
何というか、貫禄のある風貌をしている。これは口に入れるとまず、シャリが温かくて驚いた。
そのせいか、大トロの脂が食べた瞬間から口の中に広がっていき、噛む度にシャリと脂が程よく混ざっていく感覚があった。
全くしつこさはなく、まろやかで美味しい。

とろたく

大トロが大将なのかと思いきや、ラストを飾るのはなんととろたく。
たくあんのポリポリした食感と甘酸っぱさが、トロの濃厚な旨味を中和して美味しい。
たしか茗荷も入ってた気がする。

5杯目

ここでまぐろ祭りの終了と共に日本酒へ戻る。

春子

初めてちょっと良い寿司屋に一人で行った時、こんな美味しいネタがあるのか!と感動の初体験をさせてもらった思い出深いネタ。
皮目がとっても美しい。鯛よりさらに淡白だが、身が柔らかく美味しい。

梅かな?と思ったら間引いた桃だった。
半信半疑で食べたら本当に桃だった(当たり前)。こんな青くてもしっかり桃の香りがして感動。

藁焼きした鰆の3枚づけ。藁の良い香りが鼻にふわっと抜けていく。

たこ

たこって安いネタのイメージがあるが、こちらを頂くとイメージががらりと変わるかもしれない。
噛み締めると貝のようなむっちりとした食感で、噛めば噛むほど旨味が広がる。

6杯目

お次は白ワイン。思ったよりお酒の量が多く、焦り始めていた覚えが。

シマエビ

間に白海老を挟んである、海老の玉手箱。
とっても甘くてねっとりした海老で、生ではあるが甲殻類特有の香ばしいような香りもある。
シャリの温度が低めだったが、これは温度が高いと海老の磯臭さが香りを上回ってしまうので、あえてそうしているそうだ。

小柱

バカガイの貝柱を小柱というらしい。恥ずかしながら初めて知り、食べたネタ。
貝柱って貝の身とはまた違う、噛み応えがあるのにすっと歯が通っていく不思議な食感で好き。
出汁を飲んでいるかのように、一噛みごとに旨味を感じる。

ウニ

美味しいウニって固体なのか液体なのか分からない。
柔らかいプリンのように、舌の上に乗ったと思ったそばから融けていってしまう。
生臭さは全く無くて、海苔の香りとウニの甘み、シャリの酸味が最高のバランスで成り立っている。

穴子

握りの大トリは穴子。握りなのに、心細さを感じてしまうほど柔らかい。
こちらはウエケンという仲買さんで扱っている宇和島穴子で、帰ってから調べてみるとこちらを卸してもらえるだけでもすごい事らしい。
ウニは液体かな?と思うとろけっぷりだったけど、穴子メレンゲかな?というふわふわのとろけっぷり。ツメは控えめで、穴子の美味しさを信頼している一貫だと思った。

まぐろの出汁&中華麺

半分くらい食べてから慌てて写真を撮ったが、まぐろの出汁に3口くらいで食べられる程よい量の麺が入っている。
温かい出汁って満腹でも飲み干してしまう、癒しの一杯。

玉子

こうして見るとちょっとした高級店のケーキのような玉。
上のブリュレっぽい部分、真ん中のムースのような部分、一番下の固めのプリンのような部分と3層になっていて、お寿司以外にもこだわりが強く感じられる。
上は奥久慈の玉子、下はエルフランスの玉子と使っている玉子も異なるという力の入れっぷり。
(真ん中はうまあじ、とメモに書いてあるが”うまあじ 卵”で検索してもそれっぽい情報が無かった)
正直おかわりしたいくらい美味しかった。

最中アイス

いつもご飯の後は甘いものが食べたくなるので、こういうお店でデザートがあるのは嬉しい誤算。
焙じ茶液体窒素で急速に冷やして作る即席アイスをパリッパリの最中で包み、一つ一つ手渡しして下さる。
液体窒素なんてバイオハザードで敵を倒したり、ターミネーターで敵を倒したりするのに使うイメージしか無かったが、こんな有意義な使い方があるとは……と目から鱗

メニュー

この日のメニュー。
香りと温度にこだわっているお店なので、一つ一つに温度も記載されている。
このメニューも持ち帰りが出来るので、ありがたく記念として持ち帰らせてもらった。

持ち帰りの箸

持ち帰られる箸は、こんな立派な箱に入れていただける。
銀の箔押しが美しい。

お土産その2

そしてなんとこちらもお土産。まぐろのXO醤
そのままだと少し辛かったので……

じゃがバターXO醤乗せ

じゃがバターに塩辛の要領で乗せてみた。
これめっちゃ美味しくてじゃがいもがあっという間に無くなってしまった……
ツナよりも水分量が多くモチモチした食感のまぐろが、ピリ辛で旨味がぎゅっと溶け出した油に浸かっており、めちゃくちゃ美味しい食べるラー油みたいな感じ。

初めから終わりまで、圧倒的な非日常感の中で素晴らしく美味しい食事とおもてなしを受けられる、衝撃的なお店だった。
大将は最初寡黙かなと思ったけれど、とてもにこやかにお話しして下さるので、入店直後はかなり緊張していたが次第に緊張は解れていった。
気軽に友達を誘っていけるお店ではないけれど、寿司という食べ物のもつ力を改めて感じさせてくれる、人生の中で忘れられない体験をさせていただいた。
ご馳走様でした!